「なぜ高校や大学で四次方程式の解の公式を教えないのか?」という疑問に対する回答は至ってシンプルです。「公式があまりにも長すぎて、暗記はおろか書き下すことすら現実的ではないから」に他なりません。
一般の四次方程式 $ax^4 + bx^3 + cx^2 + dx + e = 0$ において、係数 $a, b, c, d, e$ だけを用いて一つの根を書き表そうとすると、根号の中にさらに根号(立方根と平方根)が幾重にも重なる「多重根号」の怪物のような式が現れます。数式処理システムなどで一切の省略をせずに一行で展開した場合、文字数は数千文字に達し、数式変形を紙に手書きすればあっという間に数枚のレポート用紙を埋め尽くします。試験場でこれを適用して計算を完遂できる人間はまず存在しません。
さらに深刻なのが、現代のコンピュータ計算における問題です。「PCなら一瞬で代入計算できるのではないか」と思われがちですが、実務の数値計算ライブラリ(PythonのNumPyやMATLABなど)でも四次方程式の解の公式は基本的に採用されていません。あまりに複雑な平方根・立方根の引き算が連続するため、浮動小数点演算において致命的な「桁落ち(Catastrophic Cancellation)」が発生し、著しく計算精度が劣化するからです。手作業でもアルゴリズムでも、公式を愚直に使うことは百害あって一利なしというのが冷徹な工学的現実です。