家族が無事だったケースを検証する上で、最も警戒すべき医学的事実が「不顕性感染(ふけんせいかんせん)」の存在です。多くの人が「感染=38度以上の高熱、悪寒、筋肉痛」と思い込んでいますが、実際にはウイルスに感染して体内で増殖しているにもかかわらず、自覚症状が全く現れない、あるいは「少し喉がいがらっぽい」「軽い疲労感」程度で終わる人が全体の30%から最大50%に達します。
呼吸器感染症を専門とする臨床医の取材メモによれば、家庭内で「私だけは鉄壁の免疫力でピンピンしていた」と語る父親の血清抗体価を測定したところ、患者と同じ型の抗体価が劇的に上昇しており、典型的な不顕性感染を起こしていたという事例は日常茶飯事です。
問題は、無症状であっても気道粘膜からは一定量のウイルスが排出されている点にあります。症状がない本人は「自分は感染しなかった」と過信し、マスクなしで出勤したり、高齢の親族と接触したりすることで、家庭外へ感染を媒介するステルスキャリアとなり得ます。家族に発症者が出た場合、「自分は症状が出ていないから完全にシロだ」と断定するのは極めて危険な誤解です。