世界を揺るがした事件は、裁判の開廷すら見送られる異例の結末を迎える。フランス司法当局は佐川に対し、「心身喪失による不起訴(Non-lieu)」の判断を下した。法廷で罪を問うことすら不可能と判断されたのだ。当時執筆された未公開の精神鑑定意見書や医療関係者の記録によれば、鑑定医たちの間では重度の精神病質と極度の偏執狂的傾向が強く指摘されていた。違法性を認識する能力が欠如していたとするこの判決は、被害者遺族のみならず国際社会に凄まじい波紋を広げた。
精神病院への収容を経て日本へ強制送還された佐川だが、事態はさらに複雑化する。日本の精神病院での再鑑定では「心身喪失ではなく人格障害であり、刑事責任能力は存在する」との結論が導き出された。しかし、すでにフランス側で確定した司法手続きの壁が立ちはだかり、二重処罰の禁止という法 Principle により国内での起訴は実現しなかった。両国の法制度と医学的判断のギャップが生んだ、制度の死角である。