文学作品として誕生したイメージを映像美として国民の記憶に刻み込んだのが、1984年12月に公開された角川映画『天国に一番近い島』です。メガホンをとったのは尾道三部作などで知られる大林宣彦監督、ヒロインの青山万里役を務めたのは当時17歳の原田知世でした。
映画は、亡き父が遺した「天国に一番近い島」を探し求めて一人ニューカレドニアへ旅立つ少女の成長を描いた青春アドベンチャーです。ロケーション撮影は首都ヌメアやウベア島で大規模に敢行され、大林監督特有の叙情的な映像美と南太平洋の鮮烈な色彩が見事な融合を見せました。松本隆作詞・細野晴臣作曲による同名主題歌もオリコンチャート1位を記録し、映画・音楽・出版が一体となった「角川メディアミックス」の象徴として社会現象を巻き起こしました。
社会学的な見地から振り返ると、1980年代半ばは円高の進展とともに日本人の海外旅行が「特権階級の贅沢」から「大衆のレジャー」へとシフトした転換点でした。映画が提示した「自分を見つめ直すための南洋への一人旅」という物語構造は、当時の若者層、とりわけ自立を志向し始めた女性層の心理的ニーズと深く共鳴し、ニューカレドニアをハワイやグアムとは一線を画す「精神的聖地」として位置づける決定打となりました。