自己愛的な性質は、時として巨大なエネルギーを生み出し、時代を動かす原動力にもなり得ます。歴史研究や精神分析の分野では、ナポレオン・ボナパルトやアドルフ・ヒトラーといった独裁者、さらには過酷な独断体制で世界的巨大企業を築き上げた往年の創業者たちが、自己愛性パーソナリティ障害の特性を色濃く持っていた対象としてたびたび分析されてきました。
彼らに共通するのは、「自分は神聖なる使命を帯びた選ばれし存在である」という根拠なき万能感です。この過剰な自己確信は、混乱期の大衆を惹きつける強烈なカリスマ性へと昇華されます。昭和から平成にかけての芸能界においても、強烈な我の強さや自己顕示欲を持つ人物こそがスターダムを駆け上がれるという業界構造の側面が存在していました。演出家による怒号、タレントの横暴な振る舞いも「天才ゆえの奇行」として容認されていた土壌があります。
しかし、時代が令和へと推移する中で、コンプライアンス意識の徹底とハラスメントに対する社会の視線は決定的な変化を遂げました。かつては「破天荒な芸風」や「情熱的指導」と見なされていた言動が、今や明白なパワハラ・モラハラとして断罪されます。自己愛の病理を抱えた人物は、他者を自己の引き立て役としてしか見ることができないため、時代が求める対等なパートナーシップや心理的安全性の確保に対応できず、結果として表舞台からの急激な退場を余儀なくされるケースが後を絶ちません。