昭和の映画産業を黄金期へと導いたスター俳優・宝田明は、引き揚げの過程で腹部に銃弾を受け、麻酔なしで摘出の手術を受けるという壮絶な臨死体験を味わった。命からがら帰国した彼が銀幕で見せた圧倒的な存在感と生命への執着は、この過酷な原体験と切っても切れない関係にある。
一方、作詞家・小説家のなかにし礼は、満州での逃避行と肉親の裏切りを題材にした名作小説『赤い月』を発表した。狂乱の時代に翻弄される人間の業を繊細かつ重厚に描き出した同作は、彼自身が幼少期に目撃した満州の光と影そのものであり、昭和歌謡界や文学界に多大な足跡を残した。