旧福岡県公会堂貴賓館の歴史を紐解くには、今から110年以上前、明治43年(1910年)に時計の針を戻す必要があります。当時、福岡市で開催された「第13回九州沖縄八県連合共進会」において、全国から来訪する皇族や要人、外国使節を迎える特別な接遇施設として建設されたのがこの貴賓館でした。福岡県土木部技師の三條栄三郎が設計を手掛け、当時の土木・建築技術の粋を結集して完成させた木造2階建ての洋風建築です。
外観の最大の特徴は、優美さと力強さを兼ね備えたフレンチ・ルネサンス様式にあります。屋根には天然スレートが葺かれ、意匠を凝らしたドーマー窓(屋根窓)や、シンボルともいえる八角形の塔屋が空へと伸びています。木造でありながら石造やレンガ造のような重厚な風合いを醸し出す下見板張りの外壁は、明治期の日本人技術者が西洋建築を咀嚼し、自らの技術として昇華させた誇りの結晶といえます。
内部へ足を踏み入れると、そこには息を呑むほどのクラフトマンシップが息づいています。旧福岡県公会堂貴賓館の見どころとして外せないのが、各部屋に設置された大理石製のマントルピース(暖炉)と、天井を彩る繊細な漆喰レリーフです。職人が手作業で彫り上げたアカンサス文様や幾何学模様、さらには当時の技術の高さを物語る木製階段の手すりやステンドグラス風のガラス窓など、視線を移すたびに明治の宮廷文化を彷彿とさせる贅沢なディテールに出会えます。
文化庁の公式資料によると、明治時代に建築された公共の木造洋風建築は全国的にも現存数が極めて少なく、地方都市においてこれほど完全な形で保存されている事例は稀少です。昭和59年(1984年)に国の重要文化財に指定された事実も、建築史学・意匠学的な価値の高さを如実に物語っています。