本作の爆発的ヒットを支えた最大の要因は、緻密に組まれた人間関係の相関図と、それを体現したキャスティングの妙にあります。愛憎と疑惑が交錯する光月庵の構図は、以下の3つの極を中心に展開されました。
第1の極は、浜辺美波(花岡七桜役)と横浜流星(高月椿役)による緊迫の主従・疑似夫婦関係です。母の無実を証明するために正体を偽って宿敵の懐に飛び込んだ七桜と、家督を守るために七桜の才能を利用しようとした椿。憎しみから始まった政略的な結びつきが、和菓子作りへの真摯な敬意を通じて唯一無二の情愛へと昇華していく過程を、両名は研ぎ澄まされた演技で体現しました。特に茶室や厨房での視線の交差、静謐な空間で漂う艶やかさは、視聴者の視線を釘付けにしました。
第2の極は、光月庵の絶対権力者として君臨した観月ありさ(高月今日子役)の圧倒的なヒール演技です。劇中で披露された「狂気じみた蝶々夫人の歌唱」や、七桜を容赦なく追い詰める凄惨ないびりは、SNS上で毎話トレンド入りを果たすほどの怪演となりました。しかし単なる悪役にとどまらず、夫から一度も愛されず、婚外子を抱えて名門の看板を必死に守り抜こうとした「孤独な防衛者」としての内面を滲ませた演技力は、放送文化基金賞など各方面から絶賛を浴びました。
第3の極として物語に厚みを加えたのが、実力派バイプレイヤー陣です。紳士的な佇まいから一転して狂気の真犯人へと変貌した山崎育三郎(多喜川薫役)、七桜に淡い恋心を抱きつつも自らの過去と向き合う職人を演じた高杉真宙(城島裕介役)、椿への狂気的な執着と自立の間で揺れた岸井ゆきの(長谷栞役)、そして光月庵の血統主義を体現した佐野史郎(大旦那・高月宗寿役)。誰一人として無駄なキャラクターが存在しない精緻な群像劇が構築されていました。