鞍馬寺を語る上で欠かせないもう一つの顔が、平安末期の悲劇の英雄・源義経(牛若丸)と、彼に兵法を授けたとされる「鞍馬天狗(大天狗・僧正坊)」の伝承です。
父・源義朝の敗死に伴い、わずか7歳で鞍馬寺に預けられた牛若丸は、昼は仏道修行に励み、夜になると寺を抜け出して奥の院の山中で武芸の鍛錬を重ねたと伝えられます。その舞台となったのが、奥の院へと続く山道に現れる「木の根道(きのねみち)」です。
この一帯は地表近くに硬い砂岩層が広がっているため、杉の木の根が地中深くに潜ることができず、まるで大蛇がのたうち回るかのように地表をびっしりと這い回っています。牛若丸はこの木の根を飛び越えながら俊敏な身のこなしを鍛えたとされ、現在も当時の面影をそのままに残す異空間です。大地の生命力がむき出しになったこの道を歩けば、伝説の天狗が今なお木々の間で見守っているかのような、濃密な霊気を感じ取ることができます。