カラオケの現場には、良かれと思って実践されているものの、実際には喉にとって逆効果となっている民間療法的な誤解が複数存在します。医学的・発声学的な視点からその盲点を検証します。
ネット上で最もよく見られる誤解が「喉が渇くから冷たいウーロン茶を飲む」という行動です。ウーロン茶や緑茶に含まれるカテキンやカフェイン、油分を分解するポリフェノールは、声帯表面の潤滑油である薄い粘液層を洗い流してしまう性質があります。油分を奪われた声帯は乾いた皮膚と同じ状態になり、摩擦熱で急激に炎症を起こします。喉ならしを円滑に進めるためのベストな飲料は、常温の水またはノンカフェインの麦茶・白湯です。
もうひとつの致命的な盲点は、「喉を休めるために、一曲目は静かなスローバラードを入れる」という判断です。一見すると喉に優しそうに思えますが、実はスローバラードほど息を細く長く吐き続けなければならず、腹筋の支えがないと喉仏(喉頭)の位置が上がって首周りを強く締め付けてしまいます。声が温まっていない一曲目に必要なのは、静寂なバラードではなく、リズムに合わせて息を弾ませられるミドルテンポの楽曲です。
また、「原曲キーで歌わないと格好悪い」という先入観も捨てるべきです。声帯の長さや厚みは身長や骨格と同じく個人差があり、プロの女性シンガーでもコンディションによってキーを変更します。サビの最高音がhiBを越える楽曲であれば、迷わず「#1」や「♭2」など自分の中音域に合わせた調整を行うことこそが、声帯トラブルを未然に防ぐプロフェッショナルな自衛術と言えます。