接客の心得として、英語圏には「The customer is always right(顧客は常に正しい)」という有名なビジネス格言が存在します。20世紀初頭に米国の百貨店創業者マーシャル・フィールドや英国のセルフリッジズ創業者が広めたフレーズです。
一見すると日本の「お客様は神様です」と同義に思えますが、本質的なニュアンスには明確な差があります。英語圏のこの言葉は、「客が何を欲しているかという市場ニーズに対して事業者は謙虚であれ」「不当な扱いを受けたと感じた客のクレームには真摯に耳を傾けよ」というマーケティングや苦情処理の合理的指針に過ぎません。従業員の人権を差し出してまで客の理不尽に従属せよという意味ではないのです。実際、欧米では迷惑客に対して店側が「サービス拒否(Right to refuse service)」を日常的に行使します。
一方、日本社会において言葉が歪んだ背景には、社会学者や心理学者が指摘する「甘えの構造」と「心理的バウンダリー(自他境界)の曖昧さ」が存在します。「金を払っているのだから相手は自分の要求を無制限に受け入れるべきだ」という幼児的な万能感を接客現場に投影してしまう歪んだ心理が、「神様」という絶対的権威の言葉と結びついてしまったのです。
【プロの結論】健全なサービス関係を築くための明確な判断基準
健全な商取引を維持するためには、事業者側も消費者側も「顧客」と「迷惑者」を峻別する明確な境界線を引く必要があります。
【正当な顧客として大切にすべき条件】
・商品やサービスの不備・欠陥について、事実に基づき建設的な是正を求める人
・スタッフを一人の人間として尊重し、敬意あるコミュニケーションを交わす人
・店舗や施設のルール・利用規約を遵守し、他の利用者の快適性を損なわない人
【毅然とサービスを拒絶・対処すべき迷惑客の条件】
・「お客様は神様だろう」と威圧し、規定外の特別対応や土下座などの精神的屈服を迫る人
・大声、暴言、人格否定、長時間の居座りによって業務を意図的に妨害する人
・スタッフの氏名や顔写真を無断撮影し、ネット晒しや脅迫の道具に使う人