推定無罪の原則は、憲法および国際法上の確立された最高規範です。日本国憲法第31条(法定手続の保障)をはじめ、世界人権宣言第11条や国際人権規約(自由権規約)第14条第2項にも明記されており、「正当な法的手続を経て有罪判決が確定するまでは、何人も罪を犯していない者として扱われなければならない」という基本的人権を保障しています。
日常会話では「疑わしきは罰せず」と同じ意味で用いられがちですが、法解釈論において両者には厳格な棲み分けが存在します。「疑わしきは罰せず」はラテン語の法格言「in dubio pro reo」に由来し、日本の法制度では「疑わしきは被告人の利益に」という原則として刑事裁判の現場に根付いています。これは刑事訴訟法第336条(罪となるべき事実の証明がないときは判決で無罪を言い渡さなければならない)に直結する概念であり、「裁判官が事実を認定する際、合理的な疑いを差し挟む余地のない立証が検察側にない場合は無罪としなければならない」という証拠評価のルールを指します。
これに対し、推定無罪の原則は裁判官の心証形成にとどまらず、捜査段階から社会的な扱いに至るまで、国家機関や社会全体が対象者を「無実の個人」として処遇すべきだとする包括的な憲法的理念です。また、混同されやすい概念として「被疑者と被告人の違い」が挙げられます。捜査機関から犯罪の嫌疑をかけられて捜査の対象となっている段階を「被疑者」(マスコミ呼称は容疑者)、検察官によって起訴(公訴提起)され裁判を受ける立場になった者を「被告人」と呼びます。どちらの立場であっても、確定判決が出るまでは推定無罪の恩恵を受ける正当な主体です。