「熱帯夜で室内温度が30℃を超えている」「赤外線チェックを試したが全く光らない」という緊急事態でも、リモコンが届くまで暑さや寒さを我慢する必要は毛頭ありません。家庭用エアコンには、リモコンを紛失・破損したユーザーを救済するために、室内機本体だけで最小限の空調を作動させる物理機構が標準搭載されています。
室内機の前面パネル(吸い込みグリル)を両手で持ち上げてカチッとロックする位置まで開くと、右側面の電装カバー付近、あるいは吹き出し口のすぐ脇に小さなプッシュ式スイッチが見つかります。これこそがエアコン応急運転ボタンです。このボタンを指先やボールペンの先で一度だけ「短押し」すると、本体から「ピッ」と確認音が鳴り、前回の設定状況に応じた自動運転(一般的には室温25℃前後を目標とする冷房または自動除湿運転)が即座に立ち上がります。停止させる際も、同じボタンをもう一度短押しするだけで安全に電源が切れます。
主要メーカーごとのスイッチ配置と名称には明確な差異があるため、主要2大メーカーの仕様を押さえておくと迷いません。
まず、空調最大手のダイキンエアコンリモコン故障時には、前面パネルを開けた右下部分、または下部吹き出し口の右側に配置された「自動運転スイッチ」や「運転/停止スイッチ」を使用します。ダイキン製は長押ししてしまうとテストモード(試運転モード)に入ってしまう機種が多いため、必ず「カチッと1回だけ短押し」することが肝要です。
一方、パナソニック製エアコンにおいては、パナソニック応急運転スイッチ(本体表示部付近に「応急運転」または「手動」と表記された丸ボタン)を押下します。一部の「エオリア」シリーズでは前面パネルを開けずとも、本体右下底面にボタンが露出している親切設計のモデルも存在します。ボタンをワンプッシュするだけで、室温に応じた「おまかせ自動運転」が作動し、命の危険を伴う室温上昇を即刻食い止めることが可能です。
ここで絶対に混同してはならない技術的注意点があります。それは、エアコン本体強制運転手順との明確な使い分けです。ネット上の掲示板や一部の動画サイトでは「ボタンを5秒以上長押しすると強制的に冷風が出る」といった情報が散見されますが、これは移設や廃棄時に冷媒ガスを室外機へ回収するための「ポンプダウン専用モード(強制冷房運転)」である危険性が極めて高い操作です。強制冷房モードはサーモスタット(温度センサーによる制御)を無視してコンプレッサーを定格最大出力で回し続けるため、室温が極度に下がりすぎるだけでなく、室内機の熱交換器が凍結したり、コンプレッサーに過大な負荷がかかってエアコン本体そのものを致命的に故障させたりするリスクを孕んでいます。急場をしのぐ目的であれば、長押しではなく「1回短押し」の応急運転にとどめるのが鉄則です。