従来の生ハムのイメージを覆す和牛生ハムの人気は、単なる一過性のブームにとどまりません。イタリア北部ロンバルディア地方には牛肉を塩漬け・乾燥熟成させた伝統食材「ブレザオラ(Bresaola)」が存在しますが、一般的には脂肪分の少ない赤身肉が用いられます。これに対し、日本の工房が生み出した黒毛和牛生ハムは、赤身の凝縮した旨味に加え、芸術的なサシ(霜降り)の甘みを最大限に引き出す独自のアプローチで開発されました。
最大の秘密は、和牛の脂に含まれる「オレイン酸」をはじめとする不飽和脂肪酸の豊富さにあります。一般的な豚肉の脂の融点が約33℃〜46℃、輸入牛の脂が約40℃前後であるのに対し、上質な黒毛和牛の脂は約20℃〜25℃という極めて低い温度で溶け始めます。つまり、冷たい状態では引き締まっていた肉が、舌に乗せた瞬間に人肌の熱でじわりと液状化し、芳醇な香気とともに溶けていく現象が起こるのです。
肉本来の力強い旨味を塩気で引き締め、数ヶ月に及ぶ長期乾燥熟成によってアミノ酸を極限まで増加させた仕上がりは、まさに贅を尽くした結晶と言えます。「少しずつ切り分けて極上のワインと合わせたい」「自宅で名門レストランの前菜を再現したい」という本物志向の消費者のニーズと合致し、自宅用のプチ贅沢やお取り寄せグルメとして確固たる地位を築いています。