彼を語る上で避けて通れないのが、人間時代「狛治(はくじ)」としての壮絶な過去だ。病弱な父親を救うために罪を重ね、江戸の街で排斥され続けた孤独な少年。そんな彼に手を差し伸べた素流の師匠・慶蔵と、その娘である恋雪(こゆき)。守るべき愛する存在を得て、初めて人間としての幸福を掴みかけた矢先、卑劣な毒殺によってすべてを奪い去られた。
「大切なものを守れなかった」という底知れぬ絶望と無力感。鬼化によって人間時代の記憶を失いながらも、「強くならなければならない」という執念だけが歪んだ形で残り、猗窩座という悲しき怪物を創り出した。術式展開の雪結晶のモチーフが恋雪のかんざしであり、技の名前に花火の意匠が込められているという事実は、読者の胸を強く締め付ける。強さの裏に隠された一途で哀しい愛の記憶が、彼の美しさを不可逆なものへと昇華させている。