科学的データが直接の因果関係を否定しているにもかかわらず、なぜ多くの人は「ストレスでがんになった」と確信してしまうのでしょうか。実際の医療現場やSNS、闘病記の告白からその深層を探ると、患者が抱える切実な心理状態が浮かび上がってきます。
がん患者の手記や特番インタビューを検証すると、「あのとき理不尽なリストラ宣告を受けた」「親の壮絶な介護で心身が限界を迎えていた」といった、診断直前の激動期を理由に挙げる語りが極めて頻繁に見られます。心身医学では古くから、感情を押し殺して周囲に過剰適応する癌になりやすい人の性格特徴(いわゆる「タイプC性格」)が議論されてきました。
怒りや不安を表に出さず、他人の期待に応えようと自分を犠牲にする真面目な人ほど、過剰な負荷を内部に溜め込みます。しかし、精神医学や臨床心理学の専門家は次のように指摘します。
「突然がんという過酷な病を告知されたとき、人間の脳は『なぜ自分がこんな目に遭わなければならないのか』という因果関係を必死に探します。目に見えない遺伝子の複製エラーや偶然の重なりを受け入れるよりも、『あの一連の激務や人間関係の苦痛が原因だった』と納得したほうが、心理的な整合性を保ちやすいのです」
この「コントロール感を取り戻したい」という心理的欲求が、ストレス原因説を強固なリアリティとして定着させている側面は否定できません。