「万が一事故が起きたら助からないのではないか」という不安に対しても、現代の航空安全データは明確な答えを出しています。米国家運輸安全委員会(NTSB)が過去数十年にわたる航空事故を網羅的に検証した調査報告書によると、重大事故を含めた全航空事故における搭乗者の平均生存率は95%を超えていることが判明しています。「飛行機事故=全員死亡」という通念は、映画やセンセーショナルな報道によって植え付けられた典型的な誤認です。
この事実を全世界に証明した決定的な出来事が、2024年1月2日に発生した羽田空港地上衝突事故でした。新千歳発羽田行きの日本航空516便(エアバスA350-900型機)が着陸滑走中、滑走路上に進入していた海上保安庁の固定翼機と激突。激しい炎に包まれながら約1キロメートル滑走して停止するという極めて危険な事態に陥りました。海保機の乗員5名が尊い命を落とす痛恨の事故となった一方、炎上する大型旅客機に取り残された乗客乗員379名は、誰一人命を落とすことなく全員無事に脱出を果たしました。
世界中の航空関係者が「羽田の奇跡(Miracle of Haneda)」と称賛したこの脱出劇の裏には、運任せではない冷徹なプロトコルが存在していました。客室乗務員は毎年義務付けられている「90秒以内脱出訓練」を寸分違わず実践し、煙が充満し機内アナウンス機器が故障する極限状況下で、肉声とメガホンを用いて乗客を統率しました。特に決定打となったのが、「手荷物を一切持たない」という指示の徹底です。誰か一人が荷物を取り出そうと通路を塞げば脱出スライドが詰まり、大惨事になっていたことは間違いありません。乗客がパニックを起こさず指示に従ったこと、そして機体素材に難燃性の高い炭素繊維複合材料が採用されていた構造的強度が、全員生還という結末を導きました。