一本釣りを観察していて次に驚かされるのが、「針に魚を固定するための返し(アゴ)が一切ないバーブレスフック(スレ針)を使っている」という事実です。釣り愛好家であれば「返しがなければ魚が暴れた瞬間に外れて逃げられるのではないか」と疑問に思うはずです。ここにも、無駄を極限まで削ぎ落とした作業効率の秘密があります。
カツオが針をくわえた瞬間、熟練の漁師はアタリを待つことなく、強靭な背筋と腕のバネを使って一気に竿を後方上空へと跳ね上げます。この間、竿のしなりとラインには猛烈なテンション(張力)がかかり続けています。魚の口に針が食い込んだまま強い力で引っ張られている最中は、返しがなくても物理的に針が抜け落ちることはありません。
そして、カツオが放物線を描いて漁師の脇の下を通過し、船尾の甲板や仕切り(カツオ受け)に着地する刹那、竿先をわずかに前へ戻してラインのテンションを一瞬だけ緩めます。その瞬間、返しがない針はカツオの自重と重力によって「スポン」と自然に抜け落ちるのです。
針を外すために魚を手で押さえつけたり、ペンチを使ったりする時間はコンマ1秒もありません。カツオが甲板に落ちた直後には、針はすでに次の獲物を狙って海面へと放り込まれています。1人の漁師が1分間に20〜30匹以上、群れがついているわずか10〜15分の間に数トンのカツオをデッキへ水揚げする超ハイスピード漁法は、この「引けば外れず、緩めれば外れる」特殊な針の構造によってのみ成立しています。