「体操界のキング」として一時代を築き上げた内村航平。彼の跳躍を振り返るとき、際立っていたのは力みの一切ない優美な軌道だった。内村が跳馬で見せた前方系の技は、教科書に掲載される図解そのものと言える精度を誇っていた。なぜ彼の跳躍は、審判の厳しい減点基準をことごとく無力化できたのか。
秘密は、肩甲帯の引き上げと突き手の角度にある。内村はかつて、跳馬を押す感覚について、反発をもらうことの重要性を幾度となく示唆していた。無理な筋力で跳ね上がろうとするのではなく、助走スピードのベクトルを自身の骨格で無駄なく受け止め、跳馬の弾性を利用して空へ抜ける。このミリ単位の身体制御が、着地での微動だにしない安定感を生んでいた。内村が残した教態は、ルールが移り変わる今なお、世界中のジムで選手たちが指針とするバイブルであり続けている。