日本のグルメドラマというジャンルは、これまで独自の進化を遂げてきた。その金字塔であり、アジア中で社会現象を巻き起こした作品といえば『深夜食堂』が記憶に新しい。寡黙なマスターとワケありの客たちが織りなす哀愁のドラマは、観客の心を掴んで離さなかった。
しかし、今回のコンビが挑むのは、その金字塔の延長線上でありながら、まったく新しい領域に達したヒューマンドラマだ。食を通じて人間を描く名手である是枝監督と、数々のグルメドラマで食の魅力を極限まで引き出してきた松重豊。この二人が融合することで、従来の枠組みを遥かに超えるリアリティと感情の揺らぎが生まれている。
現場スタッフの証言によれば、松重豊が演じる主人公の包丁さばきや立ち振る舞いは、本物の職人と見紛うほどだという。セリフを極限まで削ぎ落とし、視線や背中、まな板に響く包丁の音だけで感情を表現する演技は、観る者の涙腺を刺激してやまない。