映画『浅田家!』の根底に流れるユニークな家族写真の数々は、脚色されたフィクションではなくすべて実話に基づいたエピソードです。主人公のモデルとなった浅田政志氏は、三重県津市出身の写真家。専門学校の卒業制作として「一生に一度しか撮れない写真」というテーマを与えられた際、家族全員を巻き込んで「家族全員でなりたかった自分になる」というコスプレ写真を撮影したことがすべての始まりでした。
消防士の格好をした写真は、実家近くの消防署に自ら足を運んで直談判し、消防車や消防服を借りて撮影したという驚くべき背景を持ちます。その後も、極道一家、病院の医師とナース、ラーメン屋、レーサーなど、家族一丸となって全力でなりきる撮影を継続。この作品群をまとめたデビュー写真集『浅田家』は、写真界の芥川賞と称される栄誉ある第34回木村伊兵衛写真賞を受賞し、浅田政志の名は一躍全国区となりました。
突拍子もない設定でありながら、写真の奥からは家族同士の深い信頼と温かな空気が滲み出ています。家族写真を撮る行為そのものが、家族の絆を再確認する儀式となっていたのです。