兄が芸能界に入らなかったことで、巷では「兄弟の不仲」「勘当」といった邪推が持ち上がった時期もありました。しかし、現場の証言を丹念に拾い上げると、まったく異なる兄弟愛の姿が見えてきます。
映画雑誌の古いバックナンバーや当時の制作スタッフの手記によると、北大路欣也が若手時代に直面した「偉大な父の重圧」を、陰で支えていたのは他ならぬ実兄でした。父・市川右太衛門は、撮影所では専務取締役であり絶対君主。家庭内でも芸に対する姿勢には妥協がなく、少年期の欣也にとって家庭は必ずしも息を抜ける場所ではありませんでした。
そんな過酷な環境において、一般の感覚を保ち続けていた実兄の存在は、欣也にとって最大の精神的シェルターとなっていました。「普通の家庭、普通の社会」を知る兄と過ごす時間だけが、父の威光から解き放たれる貴重な瞬間だったと伝えられています。
Yahoo!知恵袋や昭和時代劇ファンのコミュニティでも、「北大路欣也さんの家族は本当に仲が良かったのか?」という問いが定期的に書き込まれます。これに対し、当時を知る関係者筋からは「欣也さんが兄のプライバシーに一切触れなかったのは、冷淡さゆえではなく、一般人として静かに暮らす兄をマスコミの狂騒から守るための徹底した配慮だった」という証言が寄せられています。
兄を芸能界のゴシップに巻き込まないという紳士協定が、家族の中で固く守られていたからこそ、今日まで兄に関する不要なスキャンダルが一切流出しなかったのです。