石原慎太郎氏の神話は、キャンパスライフの只中で唐突に幕を開けました。一橋大学法学部に在籍していた1955年、同人誌『一橋文芸』に発表した短編小説『太陽の季節』が第1回文學界新人賞を受賞。さらに翌1956年、当時としては史上最年少の23歳で第34回芥川賞を受賞するという快挙を成し遂げます。
戦後復興期の鬱屈(うっくつ)とした空気を打ち破るかのように描かれた、享楽的で暴力的な若者たちの生態は社会に凄まじい衝撃を与えました。若者たちが慎太郎氏の髪型を真似た「慎太郎刈り」やアロハシャツ、サングラスを身にまとい街へ繰り出す「太陽族」が生まれるなど、単なる文壇の新人にとどまらない巨大なカルチャー現象へと発展したのです。
当時の文壇において、文学とは私小説的な内省や道徳観を重んじる場でした。しかし、慎太郎氏は身体性とスピード感、剥き出しの欲望をドライな文体で描き切り、日本の文壇に地殻変動を起こしました。既成概念を平然と踏み越えていくこのデビュー劇こそ、彼が「早熟の天才」と恐れられた最初の瞬間でした。