これほどの実力を持つDJIが、なぜ「危険」「怪しい」と噂されるのでしょうか。その震源地は、米中対立の激化に伴う米国政府の制裁措置にあります。
発端は2020年12月、米商務省産業安全保障局(BIS)がDJIを「エンティティ・リスト(禁輸対象リスト)」に追加したことでした。理由は「ハイテク機器を利用した人権侵害への関与」と「安全保障上の懸念」です。さらに米連邦通信委員会(FCC)による認証規制や、米議会で審議が続いた「中国製ドローン対策法案(Countering CCP Drones Act)」など、米国政府はインフラ周辺での中国製ドローン排除を強力に推し進めてきました。
米側が主張する最大の懸念は、フライトログ、GPS位置情報、カメラが捉えた重要インフラの映像が中国のサーバーへ送信され、中国の国家情報法に基づき当局へ引き渡されるのではないかという「サイバーセキュリティリスク」です。
これに対し、DJI側も公式発表資料を通じて真っ向から反論しています。
- 通信を完全に遮断して機体を動作させる「ローカルデータモード」の実装
- 米国の第三者サイバーセキュリティ調査機関(FTI ConsultingやBooz Allen Hamiltonなど)によるソースコード監査の実施と「バックドアは見つからなかった」とする報告書の開示
- ユーザーが明示的にクラウド同期を有効にしない限り、飛行データは機体内部にのみ保存される設計の明文化
一方、日本国内における対応はどうでしょうか。日本政府は2020年秋、安全保障の観点から「防衛、警察、海上保安、インフラ点検などの公的調達において、安全保障上の懸念があるサプライヤーの機体を採用しない」という方針を打ち出しました。名指しこそ避けたものの、実質的なDJI排除策とされ、公共事業や自治体の防災用途では国産メーカー(ACSLなど)へのリプレイスが進みました。
ただし、ここで重要なのは「公的機関の重要インフラ調達」と「民間・一般ユーザーの利用」は明確に線引きされているという事実です。米国のエンティティ・リストも米企業からの部品供給を制限するものであり、一般消費者がベストバイやAmazonでDJI製品を購入・操縦することを違法化しているわけではありません。日本国内においても、電波法に基づく「技術基準適合証明(技適マーク)」を取得した正規販売品であれば、個人や一般企業が使用することに法的問題は一切ありません。