今でこそ実年齢が広く知られているが、1990年代後半から2000年代半ばにかけて、GACKTの年齢は芸能界最大のミステリーの一つだった。ヴィジュアル系ロックバンド「MALICE MIZER(マリスミゼル)」の2代目ボーカルとして頭角を現した当時、プロフィール上の生年月日は「1540年7月4日生まれ」と記載されていたのである。
なぜ彼は年齢を隠し続けたのか。当時のインタビューや後年の回想録において、本人はその意図を明確に明かしている。
「音楽やアートを受け取る側に、国籍や年齢という余計なバイアスを与えたくなかった。何歳だからすごい、何歳だからこの程度、という世間の物差しを完全に排除したかった」という表現者としての強い哲学が背景にあった。単なるギミックではなく、観客の先入観を遮断するためのコンセプチュアルな防御壁だったのだ。
その神秘のベールが剥がされたのは、2009年11月5日に行われた舞台『Nemuri×GACKT 眠狂四郎無頼控』の製作発表記者会見だった。当時、主人公の眠狂四郎が物語の中で37歳を迎える設定であったことから、GACKTは報道陣の前で晴れやかにこう宣言した。
「自分も来年で37歳になる。狂四郎と同い年を迎えるこのタイミングで、真実を明かすのが最も美しいと感じた」
1540年生まれという設定を逆手にとり、「470歳若返りました」とウィットに富んだジョークで会場を沸かせたこの公表劇は、ワイドショーやスポーツ紙で大々的に報じられ、ミステリアスな偶像から「肉体を極限まで鍛え上げる現実の超人」へとパブリックイメージが鮮やかにシフトした転換点となった。