本作における秒速5センチメートル ネットの反応と評判を掘り下げると、観客の心に爪痕を残す最大の要因は、作中に登場するヒロインたちのあまりにリアルで乾いた身の振り方にあります。
第1話『桜花抄』で貴樹と魂の交歓を果たしたはずの篠原明里の現在と結婚相手の描写は、多くの男性視聴者に絶望を与えました。第3話『秒速5センチメートル』のモンタージュにおいて、成人した明里は左手薬指に婚約指輪を光らせ、落ち着いた様子で婚約者と思われる男性と東京行きの電車に揺られています。実家で見つけた古い手紙を懐かしみつつも、彼女の生活の重心は完全に現在の日常に根ざしています。「過去は美しい思い出」として綺麗に昇華し、現実の幸福を掴み取っている明里の姿は、いつまでも思春期の抜け殻を引きずる貴樹と鮮烈な対比を描き出しています。
一方、第2話『コスモナウト』において澄田花苗が報われない理由も極めて象徴的です。花苗は種子島の空の下、サーフィンに打ち込みながら貴樹を何年も一途に想い続けていました。しかし彼女が気付いたのは、貴樹の優しい眼差しが「自分の向こう側にある遠い誰か」だけを見つめているという残酷な真実でした。貴樹は花苗に対して一度も冷たい態度を取りません。しかしその「誰も踏み込ませない完璧な優しさ」こそが、思春期の少女にとっては最も残酷な拒絶でした。告白することすら許されず、涙を流して諦める花苗の姿に、視聴者からは「貴樹の思わせぶりな態度が一番残酷でタチが悪い」という批判が殺到しました。
さらに第3話で示唆される遠野貴樹と水野の別れの経緯は、大人の恋愛における悲惨さを極めています。システムエンジニアとして激務に追われる貴樹と3年間付き合った水野理紗は、貴樹の内面に決して立ち入れない孤独に耐えかね、「私たちはきっと、千回もメールをやり取りして、たぶん心は1ミリくらいしか近づけなかった」という痛切な言葉を残して去っていきます。生身の人間からの愛情を享受できず、内なる幽霊と対話し続ける貴樹の態度は、大人の成熟した人間関係を放棄した行為であり、秒速5センチメートル 共感できない心理の根幹を成しています。