日本語には「すし」を表す漢字が主に3種類存在します。それぞれが成立した時代背景と発祥のメカニズムはまったく異なります。現代の飲食業界における使われ方を含め、詳細に比較・整理しました。
歴史的な順序を整理すると、まず東南アジアから米と淡水魚を漬け込む保存食として日本に渡来したのが「鮓(熟れ鮨:なれずし)」でした。米がドロドロに溶けるまで数か月から1年以上発酵させ、米を捨てて魚だけを食べる保存技術です。滋賀県の郷土料理である鮒ずしはその直系の子孫にあたります。
室町時代から江戸時代にかけて、発酵を待たずに米酢を用いて短時間で酢飯を作る技術が開発されると、気の短い江戸っ子の気質に合致した「握りすし」が誕生します。この時、魚の鮮度と職人の仕込み(〆る、煮る、漬ける)で勝負する姿勢を表現するため、「鮨」の文字が好んで看板に掲げられるようになりました。
そして江戸末期、ハレの日の祝い膳や婚礼、節句などで好まれるようになると、「寿を司る」という縁起の良い当て字「寿司」が考案されます。この文字は魚以外の食材(かんぴょう、玉子、肉など)にも制約なく使える利便性があったため、明治・大正・昭和を経て現代の標準表記へと登り詰めました。