私たちが日本語として接するジンクスの本来の意味と定義は、原語と大きく乖離しています。英和辞典やオックスフォード英語辞典を引くと、名詞としての英語jinxの本来のニュアンスは「悪運をもたらす人・物・行動(a person or thing that brings bad luck)」、動詞としては「~に不運をもたらす」と明確に定義されています。そこに好意的な意味合いは微塵も含まれていません。
米国のメジャーリーグ中継などで解説者が「He jinxd it!」と叫ぶ場面がありますが、これは「余計なことを言ったせいで不吉な結果を引き寄せてしまった」という落胆の文脈で使われます。英語圏のネイティブスピーカーに向かって「This is my good jinx!(これは私の良いジンクスです)」と告げても、文法的な矛盾として困惑されるのが実情です。
では、なぜ日本においてジンクス良い意味誤用の真相がここまで広く定着したのでしょうか。報道資料や昭和期のスポーツ中継アーカイブを検証すると、1960年代から1970年代にかけてプロ野球の報道で「ジンクスを破る」「不吉なジンクスを克服する」という表現が多用され始めたことが確認できます。当初は正しく「不吉な法則」として輸入された言葉が、時代の変遷とともに「原因と結果を結ぶ不思議な因果関係全般」へと解釈が拡大し、古来の「験(ゲン)担ぎ」の概念と混ざり合っていったのです。
文化庁が過去に実施した「国語に関する世論調査」の文脈を辿っても、外来語が日本に定着する過程でポジティブなニュアンスを内包していく言語的変容は珍しくありません。しかし、国際的なビジネスシーンや異文化コミュニケーションの場においては、原語の持つ暗い影を正しく把握しておく必要があります。