「つぶつぶや無数の穴を見ると鳥肌が立つのは一体なぜなのか」——この疑問に対し、進化心理学と脳機能解析は明快な解答を用意しています。結論から言えば、この反応は人類の祖先が過酷な自然界で生き延びるために獲得した防衛プログラムの誤作動です。
イギリスのエセックス大学に所属する認知心理学者ジェフ・コール(Geoff Cole)博士やアーノルド・ウィルキンス(Arnold Wilkins)名誉教授らによる先駆的研究では、トライポフォビアを引き起こす画像群の光学特性が解析されました。その結果、蓮の実や蜂の巣の画像は、ヒョウモンダコ、キングコブラ、ヤドクガエルといった地球上で最も致命的な猛毒生物の皮膚パターンと、全く同一の空間周波数スペクトル(特定の明暗コントラストの繰り返し)を有していることが突き止められたのです。
人類の脳内にある扁桃体は、理性の座である大脳皮質が「これは単なる植物の種だ」と認識するよりも遥か前、わずか数ミリ秒の早さで危険を察知します。毒を持つ天敵の存在を瞬時に知らせ、全身を硬直させて逃走を促す警告が、あの「ゾワゾワとした鳥肌」の正体です。
さらに近年、ケント大学のトム・クッパー(Tom Kupfer)博士らの研究チームによって提唱され有力視されているのが、行動免疫システム(Behavioral Immune System)仮説です。人間にとって天敵以上に脅威であったのは、天然痘、ペスト、重度の疥癬、ハエウジ症といった伝染性皮膚疾患や寄生虫の感染でした。これらの病変はいずれも、皮膚上に円形の湿疹や穿孔の密集として現れます。
「穴の密集=寄生虫や致死性ウイルスの巣窟」と直感させ、強烈な嫌悪感によって物理的接触を遮断させる。つまり、集合体を見て吐き気や皮膚のかゆみを感じるのは、病気から身を守ろうとする正常な免疫警戒反応が過度に敏感に発動している証拠なのです。