かつては煙草の煙が立ち込め、男性サラリーマンの聖域だった赤ちょうちんの居酒屋が、なぜ急速にファミリー層を取り込むようになったのか。その背景には、法改正と外食業界の構造変化という2つの決定的な転換点が存在します。
最大の契機は、2020年4月に全面施行された改正健康増進法です。資本金5000万円超または客席面積100平方メートル超の飲食店において原則屋内禁煙(喫煙専用室内でのみ喫煙可能・飲食不可)が義務付けられたことで、居酒屋独特の「煙モクモク」とした空気環境が一変しました。これにより、煙草の受動喫煙を警戒して居酒屋を敬遠していた子育て世代の物理的ハードルが大幅に下がりました。
さらに、少子高齢化や若者のアルコール離れ、在宅勤務の定着による企業宴会の激減を受け、大手居酒屋チェーンはビジネスモデルの転換を余儀なくされました。日本フードサービス協会の市場調査動向でも示されている通り、夜の宴会単価だけに依存する経営は限界を迎えており、各社は17時〜19時のアイドルタイムを埋める救世主としてファミリー客層の取り込みを本格化させました。タッチパネル注文の普及、配膳ロボットの導入、キッズ会員制度の創設など、かつてファミレスが得意としていたオペレーションが居酒屋チェーンへ雪崩を打って移植されたのです。