文翔館の設計を手掛けたのは、工部大学校(現・東京大学工学部)で辰野金吾らの薫陶を受けた山形県出身の建築家・田原新之助です。英国近世復興様式(ルネサンス様式を基調とした折衷主義)が色濃く反映された外観は、山形特注のレンガ壁に御影石(花崗岩)の水平ラインがアクセントとなり、厳格さと優雅さを兼ね備えています。
現地を訪れた際に絶対に見落としてはならないのが、中央棟頂部に聳える「旧山形県庁舎の時計台」です。この時計は、北海道の札幌時計台(1881年稼働)に次ぐ、国内で2番目に古い現役の機械式塔時計として稼働し続けています。現在も電子制御ではなく、重力による錘(分銅)の落下エネルギーを利用して歯車を動かすクラシックな仕組みであり、専任の時計職人が毎週1回、急な階段を登って手動で分銅を巻き上げています。建物の外から見上げるだけでなく、館内の展示室では時計台の内部構造や、時を刻む脱進機の精緻なメカニズムを解説したパネルや模型を間近で観察できます。
さらに内装のハイライトとして外せないのが「正庁(せいちょう)」と呼ばれる旧知事室に隣接した大広間です。公式行事や訓示が行われたこの部屋の天井には、左官職人が丹精込めて手作業で復元した見事な花飾りの漆喰彫刻が施されており、陽光が差し込む大窓とあいまって、息を呑むような大正ロマンの美学を体現しています。復元時に当時の顔料配合を科学的に分析して再現された室内壁や、幾何学模様が美しい無垢材の寄木フロアも見事な職人技の結晶です。