「国民的関心事である日本代表戦を、なぜ国営・民放テレビは放送しないのか」という疑問の根底には、国際スポーツビジネスにおける構造的なマネタイズの変化が存在します。
AFC(アジアサッカー連盟)が主催するワールドカップ予選の放映権は、シンガポールや香港を拠点とする海外の大手スポーツ代理店によって一括管理されています。2020年代以降、これらの代理店は放映権料をパッケージ化し、アジア全体で数百億円規模という天文学的な価格設定を行いました。日本国内のテレビ局連合(ジャパンコンソーシアム)が従来の広告収入モデルで提示できる金額と、代理店側の要求額との間に数倍から十数倍の開きが生じたのです。
テレビ局関係者は当時の交渉の様子をこう振り返ります。
「かつては1試合数千万円から1億円程度で交渉がまとまっていた。しかし近年は予選全試合の一括購入を義務付けられ、総額は民放1局の年間スポーツ中継制作費を吹き飛ばす規模に膨らんだ。視聴率が20%を超えたとしても、CM枠の売上だけでは巨額の赤字を垂れ流す構造になってしまった」
この放映権バブルの隙間を埋めたのが、デジタル加入者獲得を最優先するグローバル配信プラットフォームの資本力でした。結果として、スポーツ中継は「公共の電波で広く薄く届けるマス型エンタメ」から、「熱量の高いファンが直接対価を支払うサブスクリプション型サービス」へと完全に再編されたのです。