使者としての任務を完全に果たした強右衛門には、安全な岡崎城で大軍とともに進軍を待つ選択肢もありました。しかし、彼は「城内の仲間はいまこの瞬間も絶望している。一刻も早く援軍が来ることを伝えたい」と、即座に長篠城へ取って返します。
長篠城の目前まで戻った強右衛門でしたが、城へ入る直前に武田軍の哨戒兵に捕縛されてしまいます。強右衛門の任務と織田・徳川の大軍接近を知った武田勝頼は、彼に悪魔のような条件を突きつけました。
「城に向かって『援軍は来ない、早く城を明け渡せ』と叫べば、命を助けるだけでなく武田家の武士として厚遇しよう」
強右衛門はこの条件を表面上承諾し、長篠城の堀の対岸、城兵全員が見渡せる場所に引き出されました。しかし、城壁にすがる仲間たちの顔を見た瞬間、彼は全身の力を振り絞って全く逆の真実を絶叫したのです。
「織田・徳川の援軍数万がすぐそこまで来ている!あと二、三日持ちこたえよ!」
謀られたことを悟った武田軍は激怒し、強右衛門をその場で逆さ磔にして槍で突き殺しました。しかし、強右衛門の「命を賭した最後の叫び」によって長篠城内の士気は一気に沸騰。城兵は武田軍の猛攻を耐え抜き、やがて到着した織田・徳川連合軍による「設楽原の戦い」での大勝利、そして武田軍壊滅へと繋がっていったのです。