渡辺裕之さんの死因の背景には、外部からは決して窺い知ることのできなかった精神疾患との孤独な闘いが存在していました。妻の原日出子さんが追悼コメントやテレビ特番の手記で明かした証言によると、異変が本格化したのは亡くなる数カ月前のことでした。
発端となったのは、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う撮影スケジュールの度重なる変更や、それに伴う極度の緊張状態でした。何事にも完璧を求めるストイックな性格であった渡辺さんは、環境の激変に強いストレスを感じるようになり、やがて不眠や食欲不振といった自律神経失調症の初期症状を訴え始めます。
専門医を受診し投薬治療などを進めていたものの、病状は次第に悪化していきました。原さんの手記によれば、渡辺さんは次第に「セリフが覚えられない」「人に迷惑をかけてしまう」「自分はもう役者として使い物にならない」といった、うつ病特有の強い自責思考(微小妄想・罪業妄想)に囚われていったと語られています。周囲がどれほど励まし、現実には何ら問題がないことを伝えても、病気によって歪められた認知を自力で修正することは極めて困難な状態に陥っていました。