昆虫の分類体系において、蝶と蛾はともに「チョウ目(鱗翅目:Lepidoptera)」という同一のグループに属しています。翅が微細な鱗粉(りんぷん)で覆われ、ストロー状の口吻(こうふん)で花の蜜や樹液を吸うという根本的な構造において、両者に本質的な隔たりはありません。
国立科学博物館や日本鱗翅学会の分類体系資料によれば、現在世界で確認されているチョウ目昆虫は約16万種以上に及びます。そのうち、一般に「蝶」と呼ばれているのはアゲハチョウ上科やセセリチョウ上科などに属する全体のわずか約10%(約2万種)に過ぎません。残りの約90%(約14万種)はすべて「蛾」として扱われています。
かつて18世紀から19世紀の昆虫学では、触角の先端が膨らんでいるグループを「棍棒角亜目(蝶)」、そうでないグループを「異角亜目(蛾)」と便宜的に分ける二分法が採用されていました。しかし、近年のDNAバーコーディングや分子系統解析の進展によって、この古典的分類は完全に覆されました。分子系統樹上、蝶と呼ばれるグループは、無数に分岐する蛾の系統の「内部」から派生したひとつの単系統群(クレード)であることが確定しています。
つまり、進化生物学的な視点に立てば「すべての蝶は、蛾の仲間のうち特定の環境に適応した特殊な一群」に他なりません。「犬と猫」のように対等な別グループが並んでいるのではなく、「クジラ偶蹄目の中でカバや牛の仲間からクジラが進化した」のと同様の包含関係にあるのが、蛾と蝶々の真の力関係です。