臨床の最前線において、治療の指針となるのが日本循環器学会などの関連学会が改訂を重ねる診療ガイドラインです。病態によって単剤投与が選ばれるのか、それともリスクを承知の上で併用療法が選択されるのか、その判断基準は精緻に体系化されています。
心房細動における脳梗塞予防においては、日本循環器学会のガイドラインにより、うっ血性心不全、高血圧、75歳以上の高齢、糖尿病、脳卒中既往などをスコア化した指標に基づき、抗凝固療法の導入が強く推奨されています。ここでの大原則は、「心房細動の脳塞栓予防に抗血小板薬(アスピリンなど)は原則として単独使用しない」という点です。かつては高齢で出血を恐れるあまりアスピリンを代替処方する例が見られましたが、数々の臨床試験により、アスピリンはDOACと同等の出血リスクを抱えながら、心原性脳塞栓症の予防効果では抗凝固薬に遠く及ばないことが立証されています。
一方で、急性心筋梗塞を発症し経皮的冠動脈形成術(PCI)でステントを留置した患者に対しては、強力な「抗血小板薬2剤併用療法(DAPT:Dual Antiplatelet Therapy)」が行われます。アスピリンに加えてP2Y12受容体拮抗薬(クロピドグレルやプラスグレル)を併用し、金属ステント内に血小板が凝集して急激に閉塞する「ステント血栓症」を徹底的に防ぎます。かつては1年以上の長期DAPTが一般的でしたが、ステント自体の改良や出血合併症の蓄積が判明した結果、近年の治療トレンドでは1〜3ヶ月程度の最短期間でDAPTを完了し、その後は1剤のみの単剤療法(SAPT)へ速やかに移行する手法が主流となっています。
では、心筋梗塞でステントを入れた患者が、同時に心房細動を患っていた場合はどうなるのでしょうか。この場合、動脈の白血栓と心臓内の赤血栓という2つの脅威に同時に直面することになります。そこで採用されるのが、抗凝固薬と抗血小板薬の併用療法です。ステント留置直後は抗凝固薬1剤+抗血小板薬2剤の「トリプルセラピー」が極めて短期間施され、その後は出血リスクを最小化するため抗血小板薬を1剤に減らした「ダブルセラピー」へ移行、最終的には抗凝固薬単剤のみへ一本化していく緻密なステップダウン戦略が取られます。多剤併用は血栓を防ぐ最強の盾であると同時に、消化管出血や脳出血という諸刃の剣を抱えるため、専門医によるシビアな服薬期間のコントロールが行われています。