「働きながら通信制大学で公認心理師になれる」というインターネット上の広告や口コミを目にして、一念発起を考える社会人は大勢います。この噂は半分が真実であり、半分は致命的なミスリーディングです。
真実である部分は、公認心理師カリキュラムに対応した通信制大学を活用すれば、社会人が働きながら学部レベルの指定科目を修得し、学士(心理学)を取得することは可能という点です。現在、社会人の受け皿として代表的な通信制大学には以下の機関が存在します。
- 放送大学:全国に学習センターを持ち、学費の安さと利便性で最も多くの社会人が集まる。
- 聖徳大学(通信教育部):長年の教員養成・心理職育成実績があり、実習支援体制が整う。
- 京都橘大学(通信教育課程):eラーニングが充実しており、全国からオンライン受講が可能。
- 東京未来大学(通信教育課程):手厚いメンター制度があり、社会人の学習継続率が高い。
しかし、致命的な誤解は「通信制大学を卒業しても公認心理師試験の受験資格は得られない」という厳然たる事実です。通信制大学で達成できるのは、あくまで区分Aの前半部分である「大学での25科目修得」に過ぎません。その先にある大学院入試を突破し、大学院を修了しなければ本試験の受験票すら手に入りません。
さらに、通信制大学の在学中にも大きな関門が立ちはだかります。それが学部必修科目である「心理演習」と「心理実習(80時間以上)」の履修登録です。放送大学の公認心理師カリキュラムを例にとると、実習科目を履修するためには学内の厳しい選考試験(筆記・面接・成績審査)を通過しなければなりません。実習受け入れ先のキャパシティに限界があるため、選考倍率は年によって数倍から10倍近くに達することもあります。選考に漏れ続ければ、何年間も実習科目を履修できず、卒業が延期されるリスクを孕んでいます。
加えて、実習そのものは通信教育では完結しません。提携する総合病院や精神科クリニック、児童福祉施設などへ出向き、平日の日中に連続して実習へ参加することが義務付けられています。「土日や夜間だけで実習をこなす」ことは制度上不可能なため、この学部実習の段階で有給休暇を使い果たすか、勤務先とのハードな調整を余儀なくされるのが社会人受講生のリアルな現場です。