銀行会館の歴史を語る上で欠かせないのが、一般のビジネスパーソンにはほとんどその実態が知られていない東京銀行倶楽部の存在です。その起源は1877年(明治10年)、渋沢栄一らが中心となって設立した日本最古の銀行家社交機関「択正会(たくせいかい)」にまで遡ります。
公式記録や金融界OBの証言によると、銀行倶楽部は単なる親睦団体ではなく、日本の金融行政や協調融資、産業育成の方向性を財界トップ同士が胸襟を開いて議論する「最高峰のインナーサークル」として機能してきました。かつての銀行会館内には、重厚な絨毯が敷き詰められた会員制食堂やバー、特別応接室が備えられ、歴代の日本銀行総裁やメガバンク頭取、大蔵省・金融庁幹部らが定期的に会合を開いていたと伝えられます。
三井住友銀行東館へと建て替えられた現在も、東京銀行倶楽部は形を変えずにビル上層部の専用フロアに継承されています。一般のオフィスワーカーや来館者が使うエレベーターとは動線が完全に分離され、高度なセキュリティによって守られたその空間は、今なお各行トップが集う特別な社交場としての品格を保ち続けています。都市の近代化に伴いハードウェアは最新鋭のハイテクビルへと進化しましたが、明治以来の金融エリートたちが紡いできたインナーネットワークの伝統は、東館の奥深くで静かに息づいています。