税制のテクニック以上に本質的な問題は、生前贈与が家族関係に及ぼす心理的インパクトです。昭和・平成の時代には「とりあえず毎年均等に子へ現金を振り込む」手法が横行しましたが、これが原因で相続発生時に激しい骨肉の争いへ発展するケースを数多く見てきました。
家族社会学の観点から分析すると、安易な生前贈与は「親子の心理的バウンダリー(境界線)」を曖昧にし、経済的自立を妨げる共依存構造を生み出すリスクを孕んでいます。親側には「お金をあげているのだから老後の面倒を見るべきだ」という無意識の支配欲が生じ、子側には「親の資産をあてにする甘え」が定着します。さらに、贈与の事実を一部の子だけに隠していた場合、親の死後に通帳履歴が開示された瞬間、兄弟姉妹間の信頼関係は修復不可能なほど完全に崩壊します。
健全な資産承継を行うためには、「誰に向いていて、誰が慎重になるべきか」を冷徹に見極めなければなりません。
【相続時精算課税(新110万円控除)を選ぶべき人】
- 被相続人の年齢がすでに高齢(75歳以上など)で、暦年課税の7年持ち戻しリスクを回避したい人
- 将来的に確実な値上がりが見込める不動産や非上場株式を、早期に次の世代へ移転させたい人
- 贈与の対象者が子(18歳以上)であり、将来の相続税申告の手間を惜しまない人
【暦年課税(従来型110万円控除)を継続すべき人】
- 贈与者が50代〜60代と比較的若く、健康状態で長期的な計画贈与が可能な人
- 相続人ではない「孫」や「子の配偶者」など、7年加算の持ち戻しを受けない対象へ資産を分散させたい人
- 毎年の贈与契約書作成や振込手続きを几帳面に管理できる人
【生前贈与そのものに慎重になるべき人】
- 遺産の総額が基礎控除額(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)を下回っており、そもそも相続税がかからない世帯
- 自身の老後資金や有料老人ホームの入居一時金など、長寿リスクに対する十分な手元流動性が確保できていない人