「一度肩を外すと癖になる」とよく言われますが、これは単なる体質の問題ではなく、初回脱臼時に生じる物理的・解剖学的な組織破壊が直接の原因です。人間の肩関節は、受け皿である肩甲骨の関節窩に対して、はまり込む上腕骨頭のサイズが約3倍も大きく、例えるなら「平らなお皿の上にゴルフボールが乗っている」ような非常に不安定な構造をしています。
その浅いお皿の縁を補強し、ボールがこぼれ落ちないよう吸盤のように支えているのが軟骨組織である「関節唇(かんせつしん)」と、関節を包む「関節包靭帯」です。肩が前方に強く脱臼した際、骨頭が前方へ飛び出す圧力によって、この関節唇が骨からベリッと剥がれてしまいます。この病変をバンカート損傷と呼びます。
さらに、飛び出した硬い上腕骨頭の後外側が、お皿の硬い前縁に激しく衝突することで、骨頭側に深い溝状の陥没骨折が生じます。これがヒルサックス病変です。お皿のストッパー(関節唇)が壊れ、ボール側にも窪みができるため、腕を後ろに引いたり外側にひねったりする動作をするだけで、窪みが受け皿の縁に引っかかり、滑り台を滑るように簡単に外れてしまう悪循環が完成します。
日本整形外科学会などの臨床データによれば、20歳未満で初回脱臼を経験した場合、適切な処置を行わなければ80〜90%以上という極めて高い確率で反復性・習慣性脱臼へ移行することが報告されています。これが肩脱臼が癖になる理由の根幹であり、初期の精密診断(MRIによる関節唇の評価)が極めて重要視される理由です。