ひとたび職業倫理が麻痺すると、現場には「みんなやっているから」「成果さえ出せば見逃される」という集団的思考停止、すなわちモラルハザードが蔓延します。実際の処分事例を振り返ると、その代償の大きさは歴然です。
大手損保・中古車販売業界の不正請求問題
組織的な保険金の不正請求問題では、過剰なノルマ設定と上層部への忖度が引き金となり、修理車両を意図的に傷つけるという前代未聞の不正が常態化しました。結果として下されたのは、業務改善命令や関係者の逮捕、そして全国規模での店舗閉鎖という破滅的な結末でした。現場の証言によれば、「おかしいと思いながらも、異論を唱えれば降格される空気の中で麻痺していった」と吐露されています。
インサイダー取引やデータ持ち出しへの厳罰
近年では、退職を控えた社員が競合他社へ転職する手土産として機密データを不正に持ち出し、不正競争防止法違反で逮捕されるケースが急増しています。企業側は対象者に対して懲戒解雇処分を下すだけでなく、数億円規模の損害賠償請求訴訟を起こす例も珍しくありません。また、業務で得た提携情報を家族に漏洩させて株式を購入させた社員が、金融商品取引法違反で課徴金納付命令を受けるなど、個人が支払う社会的制裁は一生涯に及びます。 組織心理学の観点から分析すると、こうした違反の背景には「正常性バイアス(自分たちだけは大丈夫)」と「グループシンク(集団浅慮)」が存在します。孤立した閉鎖的空間で売上目標だけを追求させられた現場では、倫理的センサーが容易にショートしてしまうのです。