東洋史や中国の学術界では、三大発明にもう1つの要素を加えた「中国四大発明」という概念が広く定着しています。ここで加わるのが、後漢の蔡倫が体系化したとされる「製紙法」です。
「世界三大発明 中国四大発明 違い」の本質はどこにあるのか。最大の論点は、「知の伝達媒体としての紙が存在しなければ、活版印刷は成立し得なかった」という物質的基盤の有無にあります。中世ヨーロッパで主流だった羊皮紙(パーチメント)は極めて高価であり、1頭の羊から数ページ分しか作れませんでした。1冊の大型聖書を羊皮紙で制作するには、数百頭の羊や子牛が必要とされた計算になります。いくらグーテンベルクが金属活字を開発しても、安価で大量供給が可能な「紙」がイスラム圏経由で普及していなければ、印刷革命は商業的にも物理的にも頓挫していたはずです。
では、なぜ中国では三大発明の技術的基礎がありながら、ヨーロッパのような劇的な社会体制の解体が起きなかったのでしょうか。中国科学史の権威であるイギリスの学者ジョセフ・ニーダムは、これを「ニーダム・プロブレム」として提起しました。
中国の官僚制(科挙制度)と中央集権的な大帝国のもとでは、これらの発明は国家の統制下で管理され、既存の秩序を安定させる道具として機能しました。一方、分裂し激しい都市間・国家間競争に晒されていた中世ヨーロッパにおいては、既存秩序を破壊してでも軍事・商業・宗教的優位を獲得しようとする市場原理が働き、技術が社会を根本から作り変える起爆剤となったのです。