「もし体重60kgの人間が、厚さ20cmのコンクリート壁に向かって突進したら、トンネル効果ですり抜けられるのか?」という問いは、物理学の講義や知的好奇心を満たす思考実験として世界中で検証されてきました。
この検証を行うために、先ほどの透過確率の計算式に巨視的(マクロ)な数値を代入してみます。
- 人間の質量 $m$:60 kg
- 壁の厚さ $d$:0.2 m(20 cm)
- エネルギーの差 $(V_0 - E)$:控えめに見積もって 1 J(ジュール) 程度
- 換算プランク定数 $\hbar$:約 $1.05 \times 10^{-34} \text{ J}\cdot\text{s}$
減衰係数 $\kappa$ を求めると、分子の $\sqrt{2 \times 60 \times 1} \approx 10.95$ に対し、分母は $10^{-34}$ であるため、$\kappa \approx 1.04 \times 10^{35} \text{ m}^{-1}$ という途方もない巨大な数値になります。これを指数部分 $-2\kappa d$ に代入すると、透過確率 $T$ は次のようになります。
T \approx \exp(-4.16 \times 10^{34}) \approx 10^{-(1.8 \times 10^{34})}
この「$10^{-1.8 \times 10^{34}}$」という数値は、通常のパーセンテージ表記はおろか、日常の言葉では表現不可能なレベルの極小値です。分母に「0」が約180溝(1.8×10の34乗)個並ぶ確率を意味します。
宇宙の全歴史は約138億年(約$4.3 \times 10^{17}$秒)であり、観測可能な宇宙に存在する全原子の総数は約$10^{80}$個と言われています。人間が毎秒1回壁にぶつかり続けたとしても、宇宙の始まりから現在までの時間を何百億回、何兆回繰り返したところで、すり抜けられる回数は実質的に「0回」です。
物理学者リチャード・ファインマンが講義で語ったように、「理論上はゼロではないが、起こることは絶対にない」というのがマクロな物体におけるトンネル効果の真実です。