ベトナム語で「ビア(Bia)」はビール、「ホイ(Hơi)」はガスや蒸気、転じて「生の」を意味します。つまりビアホイとは、当日醸造・当日配送されるフレッシュな生ビールと、それを提供する大衆酒場そのものを指す言葉です。
その歴史は、19世紀末のフランス植民地時代にハノイに設立された「オムル醸造所(現在のハノイビール・HABECOの前身)」に端を発します。かつて高級品だった瓶ビールに対し、ドイモイ政策以降の経済成長期において、庶民が日常的に楽しめる安価なデイリービールとして広く普及しました。工場から巨大なスチール樽(ケグ)で毎朝店舗へと直送され、その日のうちに売り切るスタイルが定着しています。
都市社会学的な観点から見ると、ビアホイは極めて特異な都市空間を形成しています。歩道というパブリックスペースに小さなプラスチック椅子を無数に広げ、仕事帰りの会社員、工事現場の労働者、学生、そして外国人バックパッカーが肩を並べてグラスを交わします。肩書きや階層を一時的に脱ぎ捨て、誰もが対等に語り合える都市のフラットな社交場(サードプレイス)として、ベトナム社会に不可欠なインフラとなっているのです。