鳳月杏のトップスター就任は、近年の宝塚歌劇における最大のドラマの一つです。第92期生として2006年に初舞台を踏んだ彼女は、同期に元宙組トップスター・真風涼帆や元花組トップ娘役・蘭乃はなを擁するスター揃いの期に属していました。しかし、その足跡は決して順風満帆なエリートコースではありませんでした。
通常、トップスターへの登竜門とされる「新人公演主演」を経験することなく本公演での実力を地道に磨き続け、花組への組替えを経て月組へ復帰。脇を固める重要なポジションから別箱公演の主演を次々と成功させ、入団19年目(研19)にしてトップの座を射止めました。専科を経由しない生え抜き・組替えルートでの研19トップ就任は、劇団の近代史において歴代最年長・最遅級の記録です。
劇団関係者や舞台評論家の間では、この抜擢の理由について「確固たる技術力と舞台全体の空気感を支配する大人の包容力」が高く評価された結果だと分析されています。若手の早期抜擢が目立つ時代だからこそ、酸いも甘いも噛み分けた円熟の男役芸が劇団にとって不可欠なピースとなったのです。