「子供がいない愛之助の跡継ぎは一体誰になるのか」という疑問に対し、歌舞伎関係者の間ではすでに共通認識が形成されています。愛之助が選ぶ道は、「愛弟子(部屋子や一門の門弟)への継承」あるいは「松嶋屋一門内での名跡融通」です。
歌舞伎界には、幹部俳優の楽屋(部屋)に預けられ、実質的な内弟子として英才教育を受ける「部屋子(へやご)」という制度が存在します。愛之助自身が十三代目片岡仁左衛門の部屋子から身を起こしたように、この制度は血縁を持たない才能ある若者を救い上げ、芸の正統な継承者へと押し上げるための歴史的なセーフティネットとして機能してきました。
現在、愛之助のもとには片岡愛一郎をはじめとする熱意あふれる門弟たちが所属しています。愛之助は舞台上だけでなく、プライベートや地方巡業の場でも彼らに徹底的な芸の伝承を行っており、若手の抜擢にも極めて意欲的です。愛之助は過去のインタビューにおいて、次代への継承について次のように語っています。
「歌舞伎の家に生まれなくても、歌舞伎が好きで命を懸けられる若者がいれば、その者にバトンを渡せばいい。僕が父(秀太郎)からしてもらったことを、次の世代に返すだけです」
血の繋がりだけに固執せず、情熱と実力のある弟子に「片岡愛之助」の名跡や松嶋屋の芸を受け継がせる道は、400年を超える歌舞伎の歴史において決して異端ではなく、むしろ芸道の本質を突いた極めて真っ当な継承形態と言えます。