生類憐れみの令を語る上で欠かせないのが、爆発的に増加した野良犬を収容するために建設された「中野犬屋敷」である。現在の東京都中野区周辺に建設されたこの施設は、敷地面積が約30万坪(東京ドーム約20個分)に及び、最盛期には数万頭もの犬を保護・飼育していたとされる。
単に犬を囲い込んだだけではない。現地には医師(獣医)が常駐し、餌の調達ルートや衛生管理のシステム、多額の運営予算が体系的に構築されていた。都市部における野良犬による咬傷事故を防ぎつつ、殺処分を回避するためにこれほどの巨大インフラを迅速に整備できた事実は、当時の江戸幕府が保持していた驚異的な行政実務能力とロジスティクス能力を証明している。