耳に音を届ける装置の原点を辿ると、20世紀初頭の無骨な通信機器に行き着く。1910年代、アメリカの発明家ナサニエル・ボールドウィンが自宅のキッチンで手作りした初期のヘッド受話器が、現代の耳元オーディオの直接の先祖とされる。
ボールドウィンが開発したデバイスは、非常に感度が高いものの巨大で重く、主にアメリカ海軍の通信用として採用された。当時は個人のエンターテインメントのためではなく、遠く離れた戦場や洋上の艦船から送られてくる暗号や音声電波を確実に聞き取るための純粋な軍事用インフラだったのだ。耳孔に直接挿すスタイルではなく頭部から吊り下げる金属パーツで構成されていたが、電気信号からダイレクトに音を鼓膜へ届ける基本構造は、100年以上前のこの時点で既に完成していた。