ネット上の掲示板やSNSで「クラッチバッグ」と検索すると、サジェストに「ダサい」「時代遅れ」といった否定的なワードが並びます。アパレル業界の現場リサーチと消費者アンケートのデータを分析すると、否定派が感じるネガティブな印象には明確な3つの構造的要因が存在していました。
第1の要因は、昭和バブル期の「セカンドバッグ」の残像です。40代以上の世代にとって、太いマチにリストストラップが付いた革袋を小脇に抱えるスタイルは、「集金に来た金融業者」や「昭和の夜の街のオジサン」を強烈に想起させます。社会学における記号論の観点からも、一度社会的に定着した「おじさん記号」を払拭するのは容易ではありません。2010年代の流行時に若い世代が無造作に抱え込んだ姿が、皮肉にもかつてのステレオタイプを呼び戻してしまった側面があります。
第2の要因は、荷物を詰め込みすぎたことによる「豚財布化」現象です。本来、クラッチバッグ(英語のclutch=「ぐっと掴む」が語源)は、薄マチで平たい状態を美しく保つ前提で設計されています。しかし、スマートフォン、大型の長財布、キーケース、モバイルバッテリーなどを無理やり詰め込み、不恰好に膨らんだ状態で持ち歩くユーザーが後を絶ちません。シルエットが崩れたバッグは、スマートさとは対極の生活感を漂わせ、周囲に「だらしない」という印象を与えてしまいます。
第3の要因は、「脇の下への強い挟み込み持ち」です。落とさないようにとバッグを脇の下にギュッと挟み込む所作は、肩をすぼませ、姿勢を悪く見せる原因になります。ファッションスナップの現場検証でも、脇に挟んだ瞬間に全体のスタイリングが硬直化し、こなれ感が一瞬で消失することが確認されています。アイテム自体の問題ではなく、身体所作の不一致が「ダサさ」を生み出しているのです。