世界的な大ヒットを記録し、アカデミー賞を総なめにした映画『オッペンハイマー』は、原爆開発を主導した科学者ロバート・オッペンハイマーの光と影を描き、世界中で巨大な議論のうねりを巻き起こした。映画は開発者の葛藤に主眼を置いたが、投下された側の犠牲者の視点が描かれていないとの指摘も相次いだ。この作品の公開を機に、世界中の人々が「その下で何が起きていたのか」という逆側の歴史に関心を向ける契機となったことは紛れもない事実である。
長崎市にある長崎原爆資料館には、映画の鑑賞を経て直接足を運ぶ外国人旅行者の姿が急増している。展示された黒焦げの飯ごうや溶けたガラス瓶、被爆者の遺品を目の当たりにした来館者からは、映画のスクリーンの向こう側にある「現実の惨禍」に衝撃を受けたという声が相次ぐ。科学の知性がもたらした凄まじい威力が、地上の人間に何をもたらしたのか。映画というポップカルチャーが投げかけた波紋は、歴史の全貌を多角的に理解するための新たな扉を開いたといえる。